マルホランド・ドライブ 90点
- 2012/04/25
いや〜〜不思議な映画だった。といっても見るからにブっとんだ映画ってわけではない。パッと見は普通の映画に見えるんだよ。ほんとにこれデビッドリンチの映画なの?って思うくらい。留守中のおばさんの家に女優志望のベティが泊まりにくる。そこに車の事故で生き残った女が隠れている。女は記憶喪失でリタと名乗る。かばんには大金と鍵。二人してリタの正体を探っていくというミステリー。
このあたりは凄く普通のサスペンスっぽい。映像もいたって普通。しかし合間になんかヘンなエピソードがはさまってくる。眉毛の太い男が夢で見たダイナーに居る恐ろしい男の話。映画監督に圧力をかけてくる謎の男達。コーヒーを吐き出すくだりの不快な感じ。本筋とのつながりは分らないけど、どれも演出がゆっくりで丁寧なんだよね。ついつい引き込まれて見いってしまうんだよ。
普通とヘンの境界をギリギリいくような妙な展開なんだよな。妻の浮気現場に遭遇した映画監督。しかし妻と間男は驚きもせず悪びれもしない。なんかちょっと変。マヌケな殺し屋が事態をどんどん悪くして最後は掃除機まで撃っちゃう。なんでドタバタコメディをいれてくるんだろう。そういうちょっとヘンがどんどんたまってきて後半にガクンと裏返る。
これは知っておいた方がいいと思うのでネタバレするけど、青い箱を開けた後が現実世界で今までの話は夢や妄想だったわけだ。現実に出会った人がダイアンの夢の登場人物になっている。だからちょっと変だったのか。
夢世界のベティは清楚ではつらつとして演技の才能もベテラン俳優を圧倒するほどのものだ。しかし現実世界の本当のベティは鳴かず飛ばずでまるで別人のよう。ナオミワッツじゃないのかと思ったぐらいだ。この落差がなんとも切ない。
現実世界と夢世界は対応関係があるようだ。単に支離滅裂なストーリーではなくて合理的な説明がつくようになっている(みたい)。そのためにネットには詳しい解説がたくさんあって読みふける事になる。自分なりに時系列を並べ替えたりしてなんとなく納得するもやっぱり謎はのこる。あの死体は誰だったのか。髪が黒いってことはリタなのか。でもあそこで寝ていたのはベティだし、ベティの夢なら、自分が自殺してリタに悲しんでほしいわけだから、あそこはやっぱりベティでしょ。だって夢自体がリタが死んでなかったよっていう願望なわけだし。ん〜〜わからん。
あとオーディションで歌う女性。夢の中の(何故か)カミーラローズ。現実世界ではリタの新しいレズの恋人と思われる。彼女は最も憎むべき対象のはずなのに、ベティとはなんの接点もない。なにか嫌悪感のようなものが投影されてしかるべきなのにスルーされている。印象的なシーンだけに納得いかないところだ。
こんな風に映画というパズルを完成させようとするといくつかのピースがちゃんとはまらないとこがあるんだよ。そして、その謎が解けても全体を超越したような謎の存在が残る。死を告げるようなカウボーイ。異次元のトビラのようなブルーボックス。ダイナーの裏にいる浮浪者。クラブ・シレンシオの二階席にいる青い髪の女。まあ細かいところが分らなくても夢をそのまま映像にしたようなリンチワールドをただ楽しめばいいんだけどね。リンチも音楽のように楽しんでほしいと言っているというし。
最後の笑いながら迫ってくる老夫婦。冒頭のジルバダンスに出てくるところからダイアンのご両親だと思うのだが、その幻影に追いつめられるところがすさまじい狂気の映像になっている。箱から小人になってでてくるところもブっとんだよ。現場で撮影していた人たちはこのシーンがこんなに恐ろしいものになるとは思ってもみなかっただろうね。だってご老人がわーわーいいながら歩いていてるだけだよ。こんなわけのわからない恐怖を想像できるリンチは凄いよ。ホラー映画の歴史に残したい強烈なシーンだった。この人が演出したらどんな脚本でも怖いいものになるんじゃないか。
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