ダンサー・イン・ザ・ダーク95点

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世間で賛否両論のような映画ってたいてい自分は気に入る作品が多いんだよね。だからといって救いがない展開が好きっていうわけではないので、この「ダンサー・イン・ザ・ダーク」も長らく放置していた。人からミュージカル映画なんだということを聞いて、ようやく見てみようかなとなったわけだ。(ネタバレします)

凄い大傑作だった。そして幸いウツにもならなかった。あとミュージカルの部分があまりにも想像を超えていた。

あの「ビョーク」が地味なメガネの女性ってのが驚き。さえないシングルマザーで工場で働き演劇のサークルに通っている。でもしゃべる声はやっぱりビョーク。彼女はルックスが日本人みたいだし、映画の中で浮いているようにも感じる。

手持ちカメラの動きが落ち着かない。編集もギクシャクするようだ。このまえ「メランコリア」を見たので、こういう撮り方なんだなあと納得。ドキュメントみたいな感じだ。色あせた昔の写真のような映像。黄色がかったウォームな画面。わりと好きだ。でも、なんかストーリーが頭に入ってこないというか、正直退屈だ。

1/4ぐらいたって、セルマ(ビョーク)は失明するらしい。息子にも遺伝していて目の手術のお金が必要。周りの人たちはわりといい人なのだが、これからなんか悪いことがおこるのかなあ〜、どんどん悪くなっていって、最後も救いがないのかあ〜と身構えながらも、やっぱこの監督は俺には合わないのかなと思い始めていた。

そして、ついにやってきたミュージカルシーン。なんと工場の機械の音がループしてリズムとなり工員たちがフラッシュモブのように踊りだす。映像も突如として美しくなり編集もメチャかっこいい。曲もビョークの楽曲そのものじゃないか。ここまでビョークカラーだったとは。つらい現実がビョークの想像で美しいミュージカルシーンになるというわけだ。

ただし一般的なミュージカルとはだいぶ雰囲気が違う。ビョークのあのダークな音楽にダンスをつけたらこうなるだろうというような不思議なもの。これが凄くアートっぽくて斬新だった。

この展開にだいぶ安心感がわいた。おそらく現実が辛い物になっていっても想像のミュージカルシーンで救われるのだろう。

そしていよいよ恐れていた事件が起こる。しかしその顛末も自分の想像とちょっと違っていた。なんでそうなっちゃうんだよ〜と思いながらも、何か複雑な感情がうまく織り込まれていて、単に悲惨とか衝撃というわけではない。そして、なんと、このあと、まさかのミュージカルシーンがはじまった。そのシュールな展開にブっとんだ。

生き返った。

こんなミュージカルがこの世にあろうとは。想像を絶していた。これは癒しなんだろうか?見ていて心地がいい。涙が止まらない。まったく凄い。こういうのが作れるなんてラース・フォン・トリアー監督は天才だ。ここでマッシー映画殿堂入り決定。

ミュージカルシーンはどれも独創的で素晴らしい。ドラマの中でもセルマはミュージカルの練習があるのだが、それは子供達も参加する地域サークルの学芸会のような感じ。これが彼女の想像の世界で突然本格的なミュージカルに変貌する。ここがなんとも鳥肌ものだった。巻き戻して3回位見た。演じている役者は一緒なんだよね?演出と音楽と編集でまったく別物になってしまうマジック。そして、そのあと警官に逮捕されるという現実に繋げるのか?。凄い演出だ。

しかしだ、最後のシーンは俺の期待を裏切り想像の世界にならない。なんとここでは心臓の音にあわせてビョークは歌う。だが、ミュージカルにならないのだ。ここでは現実世界で歌っている。そしてやっぱりこれは救われない方の現実。監督はギリギリまで現実を突きつける。

この映画がトラウマ映画となってるのはこの最後のシーンのせいだろう。ネタバレしちゃうけど、絞首刑をリアルに描いているんだよ。自分の力で立てないセルマをなにか板のような器具に固定してたたせるとか。こういう補助具が実際にあるんだろう。その瞬間のシーンはボケた画面にはしてくれたが、ブラーンとぶら下がっているのは正直焼き付いちゃう。デートで軽い気持ちで見に行ったカップルならその後の会話がなくなるだろうねえ。

非情な終わり方だが、救いがないわけではない。息子の目の手術ができたことでセルマの願いはちゃんとかなったわけだし、死の直前に中断された歌はそのあとのテロップでつけたされ、エンドロールで楽曲となって蘇る。これが凄く感動的ないい曲なんだ。「見ることは生きること」というような歌詞。息子の目のことを思うセルマの心情に涙が止まらない。またビョークの声って凄い感動的なんだよね。

あと自分にとってトラウマにならなかった理由を考えてみたんだけど、あまり話にリアリティを感じなかったんだよね。裁判が強引すぎるとこなんか最悪な状況に無理矢理もっていくような感じだったし、目が見えてないっていう設定も、あまりリアリティがなかった。なのでこの映画を見ていて、これは現実じゃなくて映画の中の話。監督の創造した作品として見れたということなんだよね。

普通の観客はアートっぽいミュージカルシーンもピンとこなかっただろうし、ふらふら揺れるカメラとスムーズにつながらない編集はストレスだっただろうし、それでこのトラウマエンディングを見せられて辛いだけの映画で金返せってことなんだと思うけど。

やっぱり映画や音楽なんかの芸術のもつ面白さはすぐに理解できるものじゃあなくて、段階を踏んで徐々に解っていくものなので、初級、中級、上級ぐらいの段階は踏んでいかないと。このダンサー・イン・ザ・ダークは完全に上級だよね。

映画をいろいろ見ていればバッドエンディングにも耐性がつく。人生もいろいろ経験していれば安易なハッピーエンドには満足できなくなる。
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